娯楽/ランプ/東京事変 
絢爛なステンドグラスを通って差し込むいっそ禍々しいくらいの日差しの赤。そこに横たわっている束の間の静けさ。 そのなかでも俺の高ぶるばかりの感情だけが、激しい怒りにも深いかなしみにも似ていて、どうしようもない。 それが何よりも浅ましく醜いものだということをまるで諭すみたいに教えている。
しかしながら青年の胸で確かなかたちになっているのは、ひとつしかなかった。

(たった、たったの七年ぽっち生きただけで)
(そんな悟ったような口をきくんじゃない)

声を張り上げたあと痛む喉の奥、嘔吐くような熱がせり上がって、青年はそれをきれいに飲み込む努力をした。 頼りなく笑って礼を告げた目の前の背中に再び叩きつけてしまいたい言葉も同様に。 それでも熱は治まらず、目の奥に辿り着いて疼く。どうやら嚥下するものを履き違えたらしいのを知っても、既に後の祭りだった。 腹の底に沈んでしまった言葉はそのまま、ずっと居座ってぐるぐると渦巻くのが長らくの習慣になってしまった。 愛の類を囁くことを諦めてしまって以来、それ以上に伝えたい言葉を青年は持ち合わせていなかったので。

(言えるわけがない、それはお前の望んでいないこと、言えるわけが、)


「止めてくれたのがお前でよかった」

振り返って、すこしの水分すら弾き飛ばしてしまった目が細められるのを見ながら、知らぬ間に噛み締めていた自分の歯がぎり、と唸るのを聞いた。初めて見た時と変わらない笑顔が、同じくらいの大きな力でいま、青年を押し止めている。

昔の、あの復讐にひたすら魅入られていた時の自分の背中を思い切り押してやりたかった。いつでもあとひと息のところでどうしても止まってしまう手を掴んで、一思いに振り下ろすだけの勢いを補ってやる。 もしあの頃のいつか、本当に刃を振り下ろしていた瞬間があったなら、きっとこんなに苦しいことなんてなかった。
狂いそうなほどの衝動を止めていたのはいつだって、青年の意思などではない。こどもの真っ直ぐな翡翠の瞳が、青年のエゴイズムをあっさりと打ち砕くのだ。 しかもまったく哀れな事に、ガイは彼の言葉が意味するところの真実に気づいてしまっていた。だからこそ俺はこれ以上の制止を強行できない。
「それは、結局何もしないからだろう」
俺が、とは言わない。答えもない。それでもガイははっきりと頷くルークの幻を見た。互いを識りすぎているという何よりの美点が一瞬で枷になるのを、為す術なく眺めている。意識の隅で。
無言のまま、いよいよ完全に背を向けて彼は去っていく。生きる理由を求めた彼が、こうするしかないと、たったの七年の果てに悟ったその時から、口にする言葉はひとつしか決めていないに違いなかった。

誰も邪魔しないで行かせてね