正直、俺は疲れきっている。だってここまで来るのに、たった一年でたくさんの大きな波に流されて飲み込まれて這い上がって、もう精神も身体もボロボロの状態だと思う。
思う、としか云えないくらい、感覚すらもう薄れてきてるけど。
さっきまで傍にいた仲間たちのぬくもりは、つめたく吹き抜ける風にもまだ盗まれない(ああ、まだ俺のものだ)。
しずかだな、
声に出して、しまった、と思った。聞いている人は誰も居ない。だから、こんなにも、しずか。
そんな風に零れた言葉をすくい上げて応えてくれた人たち、は、もう地上に辿り着いただろうか。
もう自分たちの居場所へ戻ったのだろうか。
そろそろ俺も還さなきゃいけないな。すべてが元通りになるように、正さなければいけない。
これまでの事を思えば、今すごく穏やかな気持ちなのが不思議なくらいだ。
でもそれは当然のような気もするし、特別なことであるような気もする。そんなことを幼馴染の前で言ったなら、どっちだよ、と笑われるんだろうな。ぼんやり考える。とりとめのない思考。
かたい地面に剣を突き立てると、どこか懐かしいあたたかさに包まれていく。運命がゆっくりと正しい軌道に戻っていく。
目を瞑って、浮遊感に身を任せる。羊水のなかってこんな感じだろうか、そうかもしれない。知る由もない。
あったかくておもはゆくて、陽だまりのなかにいるみたいな。これまでこんなにも満ち足りた気持ちになれたことがあっただろうか。
こんなにも自然に零れる笑顔のまま泣きたくなることがあっただろうか。
そんな感覚をなんだかすごく、誰かに伝えたかった。できるなら、最後まで傍にいてくれた人たちに。
振り向いて言ってみようかな、でももう遅いかもしれないな。
だけど、なあ、しあわせだったって、言ってもいいかな。