娯楽/黒猫道/東京事変 
薄暗く熱気漂う洞窟の奥、少年はひとりきり取り残されたような心細さで、時間が過ぎるのをただ感じていた。 実際彼は多くの仲間と共に居たのだけれど、泣きたいくらいひとりぼっちだった。
腕のなかにある温度はおそろしいほどの速さでうしなわれていき、その一瞬一瞬につれて彼の心を恐怖の住処に仕立て上げていく。 声は出ない。何か言おうと思っても、からからに乾涸びた喉の奥に貼りついて、ひとつも言葉になっちゃくれない。 それを翠の瞳がやさしく諭すように制した。それをただ、見つめ返す。なんで、どうして、どうすればいい。 疑問ばかりが身体中をめぐるのを、なす術もなくただ。
なあ、なんでお前は俺の傍にいてくれないの。やっと本当に、心をゆるせたのに。
腕のなかで光に変わっていく彼は紛れもなく唯一の、魂の深いところで繋がれたつがいだった。 レプリカだろうが何だろうが、何にも代えがたいたったひとりの存在だった。
目を見開いて、焼きつける。あとすこしの命を燃やすようにいっそう光るその姿は、星のさいごのようで、泣いてしまうにはあんまりにも、きれいすぎたので。




「ルーク」
誰かの急かす声に、振り向かず頷いた。解っている、彼は今先へ進まなくてはいけないと、痛いくらい。
だけどここから離れたら、今度こそ本当にルークはイオンをうしなうのだった。そのぬくもりも何もかも、決して還らないものになってしまうのだ。
あと三回、数える間だけ、ここに居させてくれと切に願う。

いち、にの、さんで振り向けば、もう二度とここには戻れない。

前を向いたら後退不能なのだ

2007/12/31