復讐計画の要が消えて焦っていたガイは、その事に一先ず安堵した。
憎き血に仕えているというこれ以上ない屈辱を味わっても、その「いつか」が訪れるまでの辛抱だ。 この憎悪も苦痛もその憎き血によって終焉を迎えるのなら、それ以上のハッピーエンドは無い。
だが困ったことに、戻ってきたルークには記憶が無かった。
それまでの可愛げのなさは何処へやら、生まれたての赤子のように歩くことも喋ることもままならない様子のルークは、とりわけガイにばかり懐いた。
それも当たり前だったのかもしれない。何せガイの仇であるルークの父親も母親も必要以上に、前者は無関心であり、後者は過保護だった。どちらも親としては感心できない行動だった。
代わりに教育者として一日中傍に居る事となったガイはそれを逆手に取ろうと考え付いた。
しかしそれが徒になったのかもしれない。いつの間にか、裏表のないその無垢な存在に絆されてしまったのだ。
そしてある日、歩けるようになり言葉も一通り覚えなおしたルークは、ガイに向かって呟いた。
「ねえ、ガイはおれのそばにいてくれる?」
それは真っ直ぐすぎる言葉だった。ルークにとっての傍に居てくれる人間は、普通なら当たり前なはずの親ではなく、偽りの感情で仕えているガイだけだった。
半ば自分でそう仕向けたのに、そして同情できる立場でもないのに、酷く胸が痛んだ。
「――うん」
「ずっと?」
躊躇いを見抜いたかのように、すぐ訊ね返したその目がすべてを見透かしているかのようだった。子どもゆえの鋭さでは表しきれない何かを宿した視線。
「うん。ずっと、そばにいる」
何とか誤魔化したくて小指を差し出してからふと、ルークはゆびきりが嫌いな上にここに帰ってきてからはその行為の意味を教えていないことを思い出した。
だが彼ははっきりと、無感情に問いかけた。その言葉を今でも憶えている。
「なあ、約束したよな」
そして大人になった彼は今、あの時の約束を繰り返した。剣の切先を約束の相手であるガイへ向けながら。
「俺が死ぬ時も一緒にいてくれるよな?」
あの時と変わらぬ瞳の鋭さで、ガイの躊躇いを射抜くように見つめていた。
それでもガイはあの時のように返事を返すどころか、頷くことすら出来なかった。
それを確認した彼は失望も落胆もせず、まるでその反応が解っていたかのように嘲笑した。
「だから言ったのに」
そうして彼はその夜、誰にも何も告げることなく、光の名を冠した塔の上で一万人のレプリカと共に姿を消した。
ガイは後悔と罪悪感に苛まれながら、再び彼のあの無感情な問いかけを思い返していた。
あの時既に、彼はゆびきりだけではなく、生まれたこと、そしてすべての意味を理解していたのだ。
2007/02/22
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