だけど縋りつくことはおろか、抱き寄せてくれる事など決して、
「お前が好きだ」
何の恥じらいも躊躇いもなく、目の前で同じ名前のブウサギと戯れている彼に告げた。
この気持ちに恥ずべき事など無いし、躊躇っていてはいつまで経っても伝わらない。
そして彼にはもう時間が残されていないのだ。誰が何をしようとそれは変えられぬ惨酷な事実。
いや、本来なら既に(皮肉にも、たった今愛を告げた己の言葉によって)死んでいたかもしれなかったのだ。それを思えば、むしろ時間は与えられたのかもしれない。
「俺も陛下が好きですよ」
先ほど「ブウサギが好きか」と訊ねた時に「好きです」と答えた軽さのまま、ルークはピオニーへ言った。
よくよく考えてみれば、彼はまだ七年しか生きていない箱入りのお坊ちゃまであり、それも仕方がない。だが、もう少し察しが良くても良いのではないだろうか。
「言葉を間違えたな――愛してる、ルーク」
今度こそハッキリと、それこそあからさまなピオニーの言葉に、彼は顔を真っ赤にさせて狼狽える。

――己の知る限りの彼ならば、そうなるはずだった。
だが違わぬはずの予想を違えて、彼は表情ひとつかえず、依然としてブウサギのルークとじゃれている。
「……聞こえなかったのか?」
「聞こえましたけど」
強がっている風でもなく、視線だけを寄越した彼は退屈そうにあくびをかみ殺していた。
「俺は愛してませんから」
一切の温度も感じさせない声と眼差しがピオニーを捕えて、静かに、だが一瞬にして期待や希望の類を殺す。
死霊遣いと呼ばれる悪友でさえ、こんなにも温度の無い表情を見せることは無い。
何よりも、彼がこんな顔をすること自体がありえなかった。
今まで見てきた彼はどんな笑顔も寂しげで、こちらまで息苦しくなるような、張りつめた空気を纏っていた。
それが今の彼は、まるで人形のように何の印象も与えず、生気すら感じさせない。
思わずその存在を確かめようと手を伸ばし、あと少しで届くというその距離を彼の手によって振り払われる。
「本当は」
振り払われた手をそのままに、見上げてくる瞳から目を逸らせないままその言葉を聞く。
「ずっと知ってましたよ」
口の端を歪めて、止める暇もなく背を向けた彼が去った後、ブウサギのルークに擦り寄られて我に返った。
「知ってたのか……」
ならば己が彼に死を示したあの時、何故この想いを利用しなかったのだろうか。巧く取り入れば免れられたかもしれないのに。
そう考えて募っていくのは、更に強くなる恋情。

彼は振り払いこそはするが決して縋ることはないその手で、遂にピオニーを陥落させたのだ。



僕を突きとす君の手



2007/03/27
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