「ルーク」
前を歩いていた名前を呼んで呼び止めると、大袈裟なほどに肩を揺らして気まずげに振り返る。
「な、なんだよ」
そわそわと少しずつ距離を置こうとしているが、それが後ろめたさを顕著に表している行為だと気づかないのだろうか。
「腕を見せなさい。怪我をしているでしょう」
少しだけ咎めるような声でそう言えば、目を泳がせて「怪我なんてしてない」と必死に言い張るルークの怪我をしていない方の腕を半ば強引に取る。
「ほら、見せなさい」
幾分声をやわらげてみせれば、渋々といった様子で反対の腕を向ける。 袖にギリギリ隠れる辺りの二の腕に、思っていたよりも深い切り傷。
一応止血はしてあるが、これではすぐにまた傷が開くことは明確だ。
わざとらしくため息を吐けば、ばつが悪そうに目を逸らす。
「あなたは嘘を吐くのが下手なんですから、最初から吐かなければいいんです」
「……ちぇっ」
拗ねたように口を尖らせたルークは、布を当て、手際よくきつめに巻かれていく包帯を黙って見つめている。
「――ジェイドは、誤魔化すの巧いよな」
「お褒めに預かり光栄です」
「いや、褒めてないし」
解っていての嫌味に律儀に返すあたり、純粋というか、幼いというか。
仕方なさそうに小さく笑う自分の顔が、満更でもないものだと自覚していて、しかもそんな自分も悪くないと思っている。
こんなにも、自分が大きく変わることがあるとは欠片も思わなかった。喩え僅かでも変わるのだとしても、それを甘受することなどありえないと。
それでも図らずも色々な意味で変わってしまった今、快く思えてしまうのは、その変化を齎した彼の所為だろう。
「取り敢えず今はこれで良いでしょう。後でティアかナタリアに治癒術をかけてもらいなさい」
「ん、……ありがとう」
照れくさそうに綻ばせた顔を見て、つられるように笑みが零れる。それを見て面食らったような顔をしたルークは、顔を俯かせた。
「ジェイドは、誤魔化したり冗談言ったりするのは多いけど、あんまり嘘は言わないよな」
「――その根拠は何なんですか?」
予想外の言葉に少しだけ驚き、思わず動揺が表れたことを少し後悔した。
訊ねられたルークが漸く上げた顔は、何となく赤らんでいるようにも見える。
「確かじゃないことは言わないから」
それじゃ、と言って走り出したルークを引き止めようと思ったが、声が出なかった。
確かじゃないことは言わないから。
その言葉が胸につかえて。
確かに自分は、確証の無いことを言うのが嫌いだ。間違うことを恐れているわけではない。
根拠の無い話をしてもそれは、詮無いことだからだ。
だから確かなことしか言わない。
だが、確かだと識っているのに、どうしても言えないことがある。
「寧ろ、間違っていればと、思いますよ」
漸く搾り出した声は、自分の声とは思えないほどに、揺れていた。
彼の行き着く先も、この想いの名も、確かに識っているのに。
確信は言葉になんてできないまま、絡まって心臓を締めつけた。
飲み込んでも地獄
2007/05/20
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