前者と後者の違いが解らなければ、それは叶わない事だと彼は知らない
※ガイ様にキチがついてます。





確かに俺はルークを憎んでいた。
たとえルーク自身に罪は無くとも、呪うべき血を引いてそれでものうのうと生きているその姿を、吐き気を覚えるほど嫌悪した。
陽の覗くうちは笑顔の下に押し隠した激情を、月灯りのもと白い首を晒す安らかな寝顔の前で何度露呈した事か。
だけどその真直ぐで無垢な言動に救われていたのも本当で、復讐にしか生きる意味を見出せなかった俺に純粋な喜びを与えてくれた事もたくさんあった。
だからこそルークがレプリカだと知った時、心の底から歓喜した。
憎かったのは自分の大切なものを奪っていった仇の息子だからであって、それが無いものと知れば残るのは、七年間手ずから育てた故の愛情と愛しさのみ。
殺さずに居てよかったと、この時ほど安堵した事はなかった。


だがいくら頭で解っていても、やはり長い間渦巻いていた強い感情は捨て切る事はできない。ルークには悪いと思いつつも、どうしても本物の『ルーク・フォン・ファブレ』との違いを見極める必要があった。
そしてやはり本物のルークと自分がよく知っているルークは全く違う事をようやく咀嚼して、醜い復讐心や殺意など、あの時ルークと共にアクゼリュスへ置き去りにしてきたつもりだった。
しかし十数年の月日は侮れない。捨て去ったと思い込んでいた自分のなかに染み付いた負の感情は、シンクのカースロットによって無下に暴かれた。
それは自分にとっても不本意な事で、ルークを傷つけるつもりなど毛頭無かった。だが事実は変わらず、結果的に傷つけた。

それでもルークは俺を信じると、信じてくれると言ったんだ。
それなのに。
怯えた目を、していた。

ぼうっと佇んでいるルークに声をかけた時、その目に、明らかな恐怖の色を見咎めた。
不意を突かれた時特有の焦りとは別の。
ルーク自身もそれを解っているらしく、視線を彷徨わせて何かを言おうと口を開閉している。
何故そんな目をする? 俺はお前に何かしたか?
そんな問いかけは、だが声にする事なく呑み込んだ。心当たりが多すぎる。その事が、何故か無性に恐ろしかった。
掛けるべき言葉も見つからないまま、居心地の悪い沈黙が過ぎる。それを察したかのように声を掛けたのは、自分が苦手とする男だった。
助かったとばかりにジェイドに近づくルークは、安堵とはまた違う表情をしていた。
まるで恋人に向けるような。
俺には怯えているくせに。
そしてジェイドがルークに向ける顔もまた、愛しむような優しさにあふれたそれで。
殺していた感情が、醒めていくような感覚が身体を駆けた。
幾ばくか会話をして離れていったルークから離れ、ゆったりとした歩調で歩み寄ってくるジェイドに苛立ちを覚える。
早く視界から消えてくれ。俺が俺で居られなくなってしまう。
「あなたは顔に表さないタイプだと思ってたんですが……。ルークに何か言われましたか?」
「……何も?」
「そうですか。別に詮索するつもりは無いので深くは訊きませんが」
ジェイドの仕種や言葉ひとつひとつが神経を逆撫でしていく。ああ早く。俺が俺で居るために。
「ひとつ言っておきましょう。理由や過程はどうあれ、事実は事実でしかない」
「何が、言いたいんだ?」
「二度も裏切ったという事実は、消えないんですよ」

醒め切った激情が沸々と煮えたぎる。そうだこの男は、いつだって自分でさえ解っていない部分を見通して嘲笑うのだ。

「今更何をしても手遅れなんです」

もう手遅れなのだと。

「ですがその事実から逃げるのと向き合うのとでは勝手が違う。――あなたは自分がどちらか解りますか?」
心にはもう留めておけないその感情が行動に出る直前、ルークがジェイドを呼んだ。
「――少しからかいすぎましたね。すみません」
そう言い残して嗤う男の後姿を、これ程までに消し去りたいと思ったのは初めてだった。
ルークはその男の隣で笑う。安堵とはまた違う、あの顔で。
俺はいつだって、お前だけに心を傾けてきたじゃないか。
憎しみも愛情も嫉妬もすべてお前だけに。
それなのにお前はあいつに笑うのか。
ならば俺は憎悪や怒りというすべての負の感情をあいつに向けよう。そしてお前にとびきりの愛情を捧げよう。


お前の目がまた昔のように、俺だけを映す日まで。




崩壊愛憎カセクシス



2006/06/01