いつもなら青学レギュラーや氷帝レギュラーエトセトラのうざったい妨害を掻い潜ってからじゃなきゃ安心して一緒に居られないけど、今日は何も気にしなくたって傍に居られる。
あー幸せだなー俺、なんて思ってたら結構疲れが溜まってるみたいで、俺がファンタとお菓子を持ってくる少しの間に眠ってしまったらしい。
他校生だしありえないほど人気の高い(本人自覚ナシ)恋人は普段ゆっくり顔を見る事もできないから、これはこれで幸せなんだけど。だって恋人ってポジションさえ奇蹟みたいな確立だし。
でもこんな無防備に安心しきった寝顔を見ると、ちょっと居た堪れない気持ちになる。「男はみんなオオカミなんだよ!」ってあれだけ言ったのに……「俺も男だけど?」って返されたけど、 リョーマ君の場合はオオカミに食べられちゃう側だからいつも安心できない。
未だに可愛い恋人を狙っているオオカミに対するイライラを静める為に、テニスもしたいし嫌がるからリョーマ君の前じゃ滅多に吸わないけど、実は結構なスモーカーだったりする俺は最近替えたばかりのタバコに手を伸ばした。
煙が篭らないように窓を開けて、ゆっくりと息を吸い込んで吐き出す。メンソールのすっとする感じが、前まで赤マルを吸ってた俺には新鮮で良い感じ。それに名前もリョーマ君のイメージに合うし、やっぱり替えて良かったかも。
丁度一本吸い終わるって時にリョーマ君が身じろぎして、相当寝汚い彼がまた眠りに落ちるより先に軽く揺さぶりながら起こす。
「リョーマ君起きて〜ファンタとオレオ持ってきたから、寝るなら食べてからにしなよ」
「んー……」
起きる気配が全くないので、仕方なく諦めて頬にキスを落とすと、リョーマ君が突然ばちっと目を開いて起き上がった。
「ど、どーしたの?」
「……清純、タバコ替えた?」
「えっ? うん、まあ、替えたけど……」
「ふーん」
てっきり怒ったのかと思った俺は、特に何も思っていない様子で欠伸をする姿にひとまず安心する。 機嫌を損ねるのは簡単だが、直すにはかなりの時間と努力を費やさなければならない事を厭と言うほど知っているから。
「でもよく判ったね! 最近替えたばっかなんだよ〜」
「別に……なんとなく」
「もしかして愛の力ってやつ!?」
「殴るよ?」
オレオを食べながら少し不機嫌そうに眉を顰めたリョーマ君に謝りながら、でも間違ってないんじゃないかなと思っても口には出さない。 出したら本気で殴られるうえに三日くらいメールも電話も俺自身も無視されるだろう。
「替えたのはね、ちょっと理由があるんだ」
「清純のコトだからどーせ飽きたんでしょ」
「そんな人を飽き性みたいに言わないでよ〜」
「ホントのコトじゃん。青学でもアンタの遊び癖は有名だったし」
そう言われると言葉に詰まる。確かにリョーマ君に逢うまではかなり遊んでたけど、でも今は違う。 女の子関係全部キレイにした時に周りが「頭おかしくなったんじゃないか」って騒いだのは流石にムカッときたけど。
「前まで吸ってたやつはマルボロっていうんだけど」
言いながら、ローテーブルの上にあるプリントの裏に"Marlboro"と綴りを書く。
「これって"Man Always Remember Love Because Of Romance Only"の頭文字から取ったって言われてるんだよね」
「アンタにぴったりじゃん。つーか文法おかしくない?」
「リョーマ君に逢う前でしょそれは! 文法うんぬんはよく解んないけど……で、今吸ってるのがクール」
胡散臭そうな視線を無視して、Marlboroの下にも"KOOL"と綴る。この意味を知ったのは偶然だけど、マルボロからクールに替えるなんて、正に俺にぴったりじゃん?
「"Keep Only One Love"」
ね、ぴったりでしょ。
そう言って笑いかけると、狐につままれたような顔をしていたリョーマ君は、顔を真っ赤にさせて俯いた。 どんなに周りからクールって言われてても、俺からしたら何もかもが可愛いんだよね。
「恥ずかしーやつ……」
「えー正直に言っただけなのに」
俯いたままの体を引き寄せて抱き締める。こめかみにキスすると、真っ赤に染まった顔を少しだけ上げて睨まれる。 自然と上目遣いになるから、全然効力無いどころか寧ろ自分の首絞めるだけなんだけど……やっぱ解ってないよね。
タバコより軽い理性を総動員して、とりあえずは唇に軽いキス。ここで暴走したら三日どころか一週間以上は無視確定。と、思って頑張ろうと思った、のに。
「俺はアンタと違っていつも"クール"なんだけど?」
……どっちの意味で言ったか知らないけど、煽ったのそっちなんだから無視はしないでね。
Man Always Remember Love Because Of Romance Only=人は本当の愛を見つけるために恋をする
Keep Only One Love=一つの恋を貫き通す
キヨはマルメンがすきそう。
2007/02/17