彼に永遠を信じるかと尋ねられたことがあった。
自分はその時信じないと答えた気がする。
絵空事を語るにはあまりにも、自分は色々な事を識り過ぎていたのだ。
それでも彼は、信じると笑った。
「どっちにしたって結果が変わらないなら、少しでも前向きに考えたいんだ」
その言葉は彼の生き方にも似ていた。
彼がどんなにずっと生き続ける事を信じても、結果はきっと変わらない。
だけど彼は笑って生きるのだ。
たとえ嘘でも偽りでも前を見据え、空を見上げて世界がきれいだと微笑むのだ。
だが、ついに永遠は生まれなかった。
永遠を信じた彼は七年という短い舞台で英雄を演じて幕を閉じ、信じなかった自分はこうして生き長らえている。
そしてその自分もいつか死を迎え、その瞬間まで彼を想い続けるのだろう。
そんな事を考えながら、今まで見ることを頑なに拒んでいた彼の日記を手に取った。
彼が遺していった唯一の物。
これひとつしか、彼が存在したと証明できるものがないのだ。
暫く躊躇した後、初めて彼の七年の記憶の終末を読んでようやく理解した。
「ルーク」
彼は永遠を生み出そうとしたのだ。永遠の平和、永遠の安寧、揺るぎないそれらを、自らの犠牲の上に。
「そんなもの……望んでいなかったのに」
どんなに世界が光に満ちて幸せがあふれようと、彼の居ない世界など自分には意味が無いのだから。
ついに永遠は生まれなかった
(だから永遠など信じられないのだ)
お題:不在証明(http://fluid.hiho.jp/ap/)
愛とは壮絶で甘美であり、また、惨憺なものである。
彼に出逢い初めて愛を理解した私は、その事実にただ愕然とした。
対象となるものに対して愛する者は、その愛が深ければ深いほど無償で何かを与えたいと願い、自分すらも省みない。
たとえその結果身も心も擦り切れて朽ちてしまおうとも。
そして純粋であればあるほどにその趨向は加速するらしい。
恋人である彼は、正にその典型的な人物なのだ。
たとえそれがどんなに小さな命であろうとも慈しむことを欠かさず、
眼に映らずとも、手に触れることができなくても貴び、
傷つけられ苦しめられた相手であっても憎むことも恨むこともしない。
まるで彼は愛そのもののような存在なのだ。
だが、私が最初で最後に愛した彼が一番に愛したのは、私ではなかった。
彼自身を犠牲に仕立て上げた惨酷な世界こそが、彼が命を捧ぐ事も厭わないほど愛したものだった。
私が愛した人が愛したのは、
(世界という名の処刑台だった)
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彼がしあわせだったと、誰が断言できるのか。
彼の誕生は祝福されなかった。
彼は閉じ込められた子供だった。
彼に優しさなど与えられなかった。
彼を蔑み利用する者だけがあふれていた。
彼が望むものは何ひとつ手に入らなかった。
本当の事など本人にしか解らない。
それは生の過程だって死のさなかだって変わらない真理。
だが、彼がしあわせだったと、一体誰が断言できるのか。
ただひとり断言できるはずの彼はもうその真実を届けてはくれない。
記憶のなかの彼を呼び起こして、嘘が上手くなった彼の言葉を思い出す。
ただ信じるだけが救いという罰
(「しあわせだったよ」と笑う彼を、今も、)