地殻降下とビナー戦争で受けたオールドラントの傷痕は目に見えて回復し、預言に頼りきりだった人々も、少しずつではあるが自分の意志で自分の道を切り拓いていく人生を送っている。
そう感慨深く考えるティアもまた、イオンの変わりに導師となった祖父の助手として忙殺されそうな毎日を過ごしていた。
そんな折、ティアのもとに届いた手紙は一年前、自分の人生を、そして世界をも大きく変えてしまった旅の仲間からだった。
今はマルクトの貴族として、そしてバチカルとを繋ぐ親善大使として同じく忙しい生活をしているらしい。
と言っても実際に大変なのは皇帝陛下とその親友の相手だと、半ば冗談めかしく書いてあったのだが、それは本音だろうと記憶の糸を手繰って苦笑した。
確かにあの二人を相手にするのは骨が折れるに違いない。
そして追伸のように書かれていたそれは簡略ながらも、きっと一番伝えたかった事であるとすぐに解った。
――バチカルに、あいつらの墓が建ったらしい。インゴベルト陛下もファブレ公爵たちも、随分馬鹿げた金の使い方をなさるもんだ。
その一文に、自室の椅子に凭れていた背を僅かに強張らせた。引き結んだ口は、知らず溜め息を吐き出す。
実は同じ様な内容の手紙を、ティアはもうひとりの仲間から受け取っていた。
彼女が一国の王女として、前にも増して自分の役務以上の仕事をこなしているというのは聞くまでもなかった。 その証拠にバチカルの情勢は目に見えて良くなっていたし、そればかりか国外の問題の解決にも積極的に参加し、 最早オールドラント中の人々に崇拝される存在と化している。
その彼女からの手紙にも、『彼』の墓の事が書かれていた。
――私は、どちらでも構わないとしか言いようがありませんわ……。形にしなければきっと、お父様も叔父様達も辛いのだと思います。
そしてティアは彼らの結びの言葉を反芻して、そっと目を伏せてはこみ上げるものを呑み込んだ。
彼が帰ってくるのを信じて待っているから、そこへ行く事は無いと、二人の仲間はそう言って手紙を括った。
「ねえルーク……皆あなたを待ってるの」
だからはやく。
手紙を机にしまい、返事を書くために万年筆を滑らせた。ルークが残していった数少ない物。日記と共にあったそれを親族でもない自分が貰うのは少し気が引けたが、 好意に甘えて貰い受けた。
手紙の内容に倣って自分の近況を書いた後、ティアもまた同じ様に結びの言葉を書き綴る。
――私もそんな意味の無い場所へ行く気は無いわ。だってルークは帰って来るって約束したんだもの。
だからはやく、帰って来て。
『ルーク・フォン・ファブレ』の墓は、『二つで一つ』という象徴である十字の形をしていた。その意味を知る者は数人しか居ない。
だがそれからずっと、その意味を知る、彼と一番親しいはずの者たちが訪れることは無かった。
その事を訊ねると、皆口を揃えて言うのだった。
「必ず帰ってくるから」と。
その意味を知っているのもまた、その者たちしかいない。
2006/06/17