この想いを識っていたのなら
目覚めは突然に訪れた。
長い長い眠りから醒めた。その形容が一番しっくりするそれは、だがありえないものだった。
「なんで、俺が」
呟きに答える者はいない。ただ言葉は宙に漂い、まるで収まる場所を探すようにさまよって消えた。
自分は確かに死んだはずだった。それなのに、今ここに存在しているのは何故なのか。
ゆっくりと起き上がり、疾うに朽ちたはずの身体の隅々にまで神経を通わせて動かしてみる。
倦怠感はあるものの、何の違和も滞りもなく自分の意志が通る。
喜びなど感じない。むしろ困惑のさなかに段々と芽生えるのは、怒りにも似た反感だ。
「どうして俺を生き返らせた……!」
答えを持つはずの彼は、たとえ捜したとして見つからないと、自分のなかの冷静な部分が告げていた。
それでも言わずにはいられないのだ。彼が自分を蘇らせる必要など皆無であり、却ってマイナスになる。 そのリスクを冒してまで、なぜこんな事をしたのか。

『お前に苦しんで欲しかったからだよ』

ふと聞こえた声は、聞こえるはずもないのに、それでも確かに彼の声だった。
そしてその声が切欠だったかのように、彼の記憶が流れ込んできた。
両親から愛される事も無く唯一とも言える親友からも憎まれ続けていた幼少時代。
何も知らないまま投げ出された外の世界で、人間を殺す恐怖や悪夢に魘される毎日。
信頼していた師匠から裏切られ、望みもしない殺戮をさせられてなお、仲間から向けられる失望と軽蔑の言葉。
そして齎された存在の否定。世界の犠牲になる事を強いられ、甘受するしかない環境。
それらはすべて、自分によって彼に嫁せられたものだ。すべては自分の身代わりとして創られた所為だった。
「お前を傷つけたかったわけじゃ、ない」
むしろ救いたかった。だから訪れる死さえも、甘んじて受け入れられた。
それなのに。
「それすら、苦痛だったのか」
彼にとっては、自分から与えられるものすべてが彼を苦しめるものでしかなかった。
「答えろ、『ルーク』」
彼自身のように、声はもう二度とかえらない。
その事が自分にとって何よりの苦痛だと識っていたのだとしたら。
「俺はお前が――」
好きなんだよ。
その告白は、完璧な策士には届かないまま、漂うこともさまようこともせずに消えていった。



Perfect deceitful man




Perfect deceitful man...完璧な策士
「記憶しか残らない」彼とそれが何よりの苦痛である彼
2007/04/07