「ジェイドの初恋っていつ?」
真剣な面持ちで訊ねるルークに、繕おうと思えば幾らでも嘘は浮かぶのだが、彼には嘘をついてはならない気がしたから。
ケテルブルクに訪れた一行は、相変わらずの厳しい寒さに常に雪が舞う、だが何処かあたたかさの漂う白銀の街の中を歩いていた。 雪玉を投げながらはしゃぐ子供たちや寒さに顔を赤らめて歩く人々はみんな満ち足りた笑顔を浮かべていて、この街がどれ程平和で幸せなのかを物語っている。 それはきっとこの街で幼少の時を過ごした、あの快活で国民思いな皇帝陛下である幼馴染の力なのだと改めて感じる。
「ここはいつ来てもみんな愉しそうだよなあ」
「ルークも負けてませんけどね」
「どーゆーイミだよ」
揶揄するような言葉を返すと半眼で睨まれたが、まだ幼さの残るその顔で睨まれても小動物が威嚇しているようなものだ。髪を切ってからそれが更に顕著になったようにも思える。 しかも恋人なのだから尚更、可愛いものにしか感じられない。
そんなルークに思わず頬が緩んだのだが、それさえもからかわれたと思ったのか頬を膨らませて拗ねてしまった。
そういったまるで子供のように良くも悪くも素直な部分すら、ジェイドを喜ばせるのだと知らずにやっているあたりが愛しさを掻き立てる。
「あなたはいつでも私まで愉しくなるくらいの笑顔で笑うので」
損ねてしまった機嫌を取り返すように体を引き寄せて、自分より背の低い彼の旋毛のあたりに軽くキスをした。
「……ずるいって、そういうの」
困ったように冷えて赤くなった顔をさらに真っ赤にさせて俯くルークは、前を歩くガイたちに競歩で近付いていった。
「あなたも充分ずるいんですがね」
聞こえないと解っていて呟くと、追いかけるようにして歩みを速める。ルークとは基よりコンパスの長さが違うので急がずともすぐに追いついた。 未だに顔を伏せているルークを横目に暫く女性達の会話に耳を澄ませていると、どうやらピオニーの話をしているらしい事が窺えた。
「ピオニー陛下って一途ですのね。あんな風に想ってもらえるなんて羨ましいですわ」
「この街もネフリーさんのために手を加えていないんですってね。素敵……」
「でもでもぉ、三十路過ぎても初恋を引き摺ってるなんてそろそろやばくないですか? 私がお嫁さんになってあげるのにぃ〜」
初めてケテルブルクを訪れた時に話したピオニーの初恋話について、思い思いの事を話してはうっとりしたり野望を零したりと賑やかだ。
色めく女性陣に感化されたのか、漸く平静を取り戻したらしいルークが覗きこむようにして訊ねてきた。
「なあジェイド、ネフリーさんも陛下の事を好きだったのか?」
「はっきりと聞いた事はありませんが、多分そうでしょうね」
「両想いなのに結ばれないってのも辛い話だよなあ」
「初恋はかなわないと言いますからね」
眉根を寄せるガイに常套句を持ち出すと、ルークが何かを考えるように視線を外した。
「ルーク?」
「俺前から気になってたんだけど」
会話の流れからして、きっとピオニーかネフリーの話だと思い込んでいたジェイドは、継がれた言葉に思いがけず声を詰まらせた。
「ジェイドの初恋っていつ?」
真剣な面持ちで訊ねるルークに、誤魔化そうと思えば幾らでも嘘をつくことができる。そしてルークがそれを疑いはしても、追求することはできないことも解っている。
だが何故か、彼にはそうしてはならないような気がしたのだ。彼だけには。
恋や愛、などという言葉は自分には到底縁の無いものだと思っていた。それどころか、その対象である"人間"にさえ利点がなければ興味すら抱かない。ずっとそうやって生きていくのだと思っていたのに。
彼に出逢って、利害も駆引きも要らないと思えるような気持ちを悟ってしまった。これが恋――もしくは愛と呼ばれるものならば。
「初恋、ですか。そうですね――『最近』とだけ言っておきましょうか」
自分の口が緩く笑っているのを自覚しながら、真っ直ぐに見上げるエメラルドの双眸を見つめ返す。言葉の意味を理解したルークは再び顔を真っ赤に染め上げると、酸欠の魚のように口を開閉した。
「ルークはいつですか?」
『食えない笑顔』と称されるそれを浮かべて耳元に囁くと、一瞬体を強張らせて俯きがちに小さな呟きを口にした。
「お……俺も、最近……っ」
その小さな呟きと込み上げる愛しさに満足しながら頬に手を添えて仰向かせると、掠めるようなキスをおくった。
そんな二人をある者は居心地悪そうに、ある者は好奇心を丸出しに眺めていた。
「なんていうかぁ〜完全に二人の世界に行っちゃってますよねぇ〜」
「あれは惚気てるんだよな……間違いなく」
「初恋は必ずしもかなわないわけではないという証拠ですわね」
「……先に宿へ行きましょうか」
この気持ちが恋や愛と呼ばれるものならば紛れも無く。
(共通点)
Happy birthday to アリス姫様
リク「ジェイルクで甘甘〜vかギャグもの、パティーメンバに惚気ちゃってる的なもの」
2006/10/31