きみの魔法
「ティアってホントに歌うの好きなんだな」
突然聞こえた、感心したような声に驚きつつも冷静を繕う。
軍人として、人間として尊敬する教官を手本にしているとしても、こういうところは可愛くない……と思ってしまう。
自分でもそう感じるのだ。まして他人から見たら、もっと可愛げのない女に見えるのだろう。
以前までは気にならなかったのに、少しだけ意識してしまう。
その原因はひとつ。たった今目の前に現れた、恋人のせい。
本当は今でも『恋人』という言葉を思い浮かべただけでも恥ずかしいけれど、同じくらい嬉しく思ったりもする。
だから恋人の前でくらいは、可愛い女の子でありたい。そう思うのだけれど。
「歌うのは好きだけど、どうして?」
「んー。歌ってる時のティアが、いちばんキレイだからかな」
「ば、ばかなこと言わないで!」
「ばかってなんだよ、ばかって」
さらりと言われた恥ずかしい(けど凄く嬉しい)セリフに、照れ隠しとはいえキツイ言葉で返してしまうのが現状。
こんな事を言われたら誰だって怒るのが当たり前なのに、彼は拗ねはしても決して怒ったりはしない。
その差にいつも落ち込んでしまう。これでは彼のほうが余程、可愛いひとだ。
「……ごめんなさい」
「いいよ。照れ隠しだって解ってるから」
にっこりと笑いながら図星をついた彼は、「でも、謝ってくれてありがとう」と微笑んだ。
ほら、やっぱり勝てない。
こういうところが彼の可愛いさでもあり、なんとなく上手(うわて)な部分。
彼に相応しい存在になりたいと強く願うのはこんな時。はがゆくて、俯いたティアをどう思ったのか、頭をやさしく撫でられる。
少しだけ顔を上げると、やわらかな表情で見つめるルークが呟くように声を落とした。
「でも」
それでも真っ直ぐに見つめてくる目から、視線を逸らせないまま。
「俺の傍にいる時が、いちばんキレイかも」
「っ――……ばか……っ」
齎される言葉はいつだって、無償の甘さに彩られている。
可愛い女にはなれなくても、このままでいいかもしれないと思ってしまうほどに。



無償




お題:subliminal(http://sbl.xxxxxxxx.jp/)
2007/04/14