一体どれだけ追い詰めれば気が済むのだろう。
否応無く彼に死を強いるこの世界も、淡々とそれを告げる仲間にも憤りを抑えられない。
やっと世界を求め始めた彼を、冷酷にも世界が突き放す。
「みんなやめて! そうやってルークを追いつめないで! ルークが自分自身に価値を求めている事を知っているでしょう!」
声を張り上げて抗議してもまだ足りない。周りの人間どころか、いちばんに届いてほしい相手にすら届いていないかもしれない。
世界に償おうとする彼が、『世界のため』と言われてそれを承諾しないはずがない。自分にそれを止められるほどの力があるのだろうか。 それとも止めようとする事こそがエゴなのだろうか。
それでもいい。それでも、生きていてほしい。彼だって死を望んでいるはずがない。
「少し……考えさせてくれ」
その声音で、彼自身の中でもう結論が出ている事に気がついてしまった。そしてそれが偽りの感情の上に成り立った結論だということも。
ルークが決断するまでの間、それぞれ思い思いの場所でその時を待つ事にした。ティアは図書室に佇み、ただ刻々と過ぎていくだけの時間を恨めしく思った。
今は何もかもが彼を追い詰めるものでしかない。
そして自分も彼を追い詰める事しか言えないことを知っていた。
扉を開け近づいてくる足音が耳に痛い。普段は嬉々として耳を澄ますそれすら、今は胸を痛めるものでしかない。
誰もあなたの死なんて望んでいない。誰もあなたの犠牲の上に生きたいとは思わない。
そう言えたならどんなに良かっただろう。だがかつて自分も同じ道を歩もうとしたのだ。その覚悟と痛みを知っているからこそ言えなかった。 それでも解るからこそ、どんなものに換えても伝えたかった。
強く止める事ができなかった自分に、それでも彼は微笑む。優しく諭すように。
どうして、どうしてあなたはそんなにも――。
再び礼拝堂に集まって聞く彼の言葉に、耳を塞ぎたくとも、そんな事をしてはいけないと自分を叱咤する。
彼を追い詰めたのは世界でもあり仲間のひとりである冷静な軍人でもあり、そして、自分でもある。
塞いでは、いけない。
「俺が……俺が障気を中和します」
どうしてあなたはそんなにも――
あの微笑みをうかべながら、心の中で何度も繰り返す。
――かなしいひとなのだろう。
2006/05/06