繰り返しの業(粉雪/ASIAN KUNG-FU GENERATION)

※創世暦時代捏造です。



色々な事があった。この能力のせいで、小さな頃から決して平和と言えるような日々じゃなかったけれど、だけど。



意識はまるで記憶粒子の膜がかかったように霞んで、静かで白い部屋のなかも、愛しい人の姿すらもうこの目には映らないけれど、不思議と満たされた感覚。
先程「視た」ものがもし、自分の理想でも妄想でもなく実在する未来なら、これ以上幸せな事なんて無い。
「色んな事があったわ。私はこの能力を恨んだことこそないけど、それでも悲しかった」
未来視――未来を見通す力。それで視たひとつの可能性を提示したことで長い戦争は終結したが、また新たな争いを生み出した。 それも解っていたのに覆す力は無くて、それが何より歯痒かった。
「だけど信じてくれる人たちが居て、仲間が居て……あなたが居て、本当に幸せだった」
声は無く、ただ頷く気配だけがあった。涙を堪えているのかもしれない。そんな事をしなくても、自分が望むのはその声で名前を呼ばれることなのに。 笑顔でも泣き顔でもいいから、その姿を焼き付けたいだけなのに。
「第七譜石に詠んだ未来は、可能性の一つでしかないの。だけど一番起こりうる可能性が高いのも事実だわ」
「うん」
やっと届いた声は普段の力強さはないけれどやさしく揺れていて、やっぱり愛するひとの声がこの世界で一番好きな音だと改めて思う。悲しみを帯びたその声音に胸が痛んだけれど、きっと彼ならば悲しみから立ち直ってくれるだろう。
置いて行く方と置いて行かれる方、どちらの悲しみがより深いのだろうか。それを知る術は持たないけれど、死とはそれさえも昇華してしまうのだろうか。
「でもね……今までどうしても視ることが出来なかった未来が、さっきようやく視えたの」
「うん」
投げ出した手をやさしく包むように握る体温を感じながら、今より技術は劣っていても、治安が維持された美しい世界を思い出した。 その安寧を崩そうとする力を覆そうとしている旅人たち。あれはきっと……。
「生まれ変わっても私、あなたの隣で笑っているの……」
「それで俺、ユリアが好きなんだろ」
「それは、解らないけど……私は、あなたが好きみたいね」
「俺も絶対好きだって」
「そうだと……良いの……に」
「絶対そうだ」
子どものように言い合って、静かな笑い声が部屋に響く。今までに生きてきた最後の瞬間に、穏やかで甘やかな時間を過ごせることがこんなにも幸せな事だと知るなんて。 それは幸福な事のはずなのに、せつないと感じてしまうのは贅沢なのだろうか。
「……俺は前世でも今でも来世でもその後も、ずっとずっとユリアだけしか愛せないんだ」
朦朧とする意識の中の奥深くまで届くまるで懺悔のような、だけど力強いその言葉。返事をしたいのに呼吸さえ覚束ない身体ではそれは叶わず、ただ微笑むしかできない。

「ユリアの側に居るのが俺の幸せなんだ。だから……」
その言葉の続きは解っていた。「置いていくな」なんて縋る繊弱な人でも、相手を困らせる傍若無人な人でもないから。
「次の未来も、嫌がられたって傍に居るよ」
徐に持ち上げられた右手に、あたたかな雫がぱたぱたと滴る。この人の涙はきっと綺麗なのだろうと考えて、そういえば実際に見た事が無いのだと気付いた。
未来を視る瞳なんて、それを覆す力を持たない自分が持っていたところで、どんな意味があったのだろう。
もし、最期の我儘が赦されるのだとしたら――次に生まれるときは、愛しいあなたのすべてを映す目が欲しい。
約束の通り、あなたが隣に居てくれる未来ならば。


遥かな時を越え、繰り返しの業の末。
聖なる焔が譜を詠みし者と出逢う時、約束は果たされる。




カルマ



私的設定:ユリア→ティア、アルバート→ルーク
2006/08/15