「ピオニー陛下は私を買い被っているんですよ」
突然の言葉に戸惑いつつも、先ほどの陛下の言葉を思い出してふっと暖かさが過ぎる。
国を背負う身でありながらもこんな自分の事を優先してくれる優しい皇帝に、ありがとうと心のなかで呟いた。
本人の前では云えない。自分はその優しさを受け入れる事はできないし、次に『宣言』をする時がきっと最後だから。
「恨んでくれて結構です。あなたがレプリカと心中しても、能力の安定した被験者が残る。瘴気は消え、食い扶持を荒らすレプリカも数が減る。いいことずくめだ」
こんなに饒舌な彼は珍しい。内容は皮肉なほど彼らしいというのに、その態度が、声が、それを否定している。
そんな事を考えられるくらい冷静になれていると思っても、やはり身体は正直に震えていて。本当は似たもの同士なのかもしれないと、少しだけ嬉しく思う。
「……ジェイド……あんたは俺に……」
「死んで下さい、と言います。私が権力者なら」
解りきっていた答え。それ以外の返事が思い浮かばなかった。希望的観測をしたとしても、「死なないでくれ」と言う彼だけは想像できなかった。
だってそれが彼の在り方であり、そして、優しさでもあると識っていたから。
彼は識っているのだ。自分が存在理由を欲していることを。それが今回の死でしか得られないことを。
他の仲間が「死ぬな」と引き止めても、揺らぎはしたが決して傾くわけにはいかなかった。
世界のためとか、そんな綺麗な理由じゃない。
生きたかったから。存在を認めて欲しかったから。――彼に、忘れてほしくなかったから。
すべて自分のために、死を選ぶのだ。だから迷いを断ち切ってくれる彼の優しさほど、嬉しいものはない。
本当に、それだけでよかったのだ。
「友人としては……止めたいと思いますがね」
彼にとっては、この言葉こそが優しさだったのだろう。だが、自分にとっては違う。こんな、こんな優しさは。
「……ジェイドが俺のこと友達だと思ってくれてたとは思わなかった」
「そうですか? ――そうですね。私は冷たいですから」
おどけたように肩を竦めてみせれば、少しだけいつも通りの二人に戻れたような気がした。
恋や、まして愛なんて感情などが成立しない関係に。
「……すみません」
再び背を向けた彼の謝罪は何に対してなのかは解らない。考えられるものはいくつかあり、きっとそのなかのひとつでもあるし、すべてへでもあるのだろう。漠然と、そう思った。
そして自ら背を向けて、彼の惨酷な優しさを振り払えないまま扉を閉ざす。
「……っ死にたく、な……い……っ」
彼が自分に与える優しさは、死へと駆り立てるものだけでよかった。迷いを断ち切るだけのものであるべきだった。
『止めたいと思いますがね』
傍にいることを赦してくれていると思ってしまうような、浅ましくも生に縋りつきたくなるような。
まるで愛みたいな、そんな惨酷な優しさなんて、要らなかったのに。
そんな愛みたいな優しさ要らない
お題:subliminal(http://sbl.xxxxxxxx.jp/)
2007/04/10