この世に生を受けて、危険も不穏分子も娯楽も気晴らしも、本当に何も無い屋敷に閉じ込められている時も。
やっとそこを抜け出した外の世界で旅をしている時も、たくさんの命を奪った時も、魔界に残された時も、瘴気を中和した時も、こうして長い旅の終焉を迎える今も。
左側は被験者や旅の仲間、預言、世界など実に様々。どんなものと並んでも、俺は右側にしか居られなかった。
被験者≧俺、仲間≧俺、預言≧俺、世界≧俺。
いつだって誰もかもが俺を右側に位置づけたがった。それが当然のような顔をして、それが常識だとでもいうように。
その通りなのかもしれない。俺はレプリカで本来ならこの世界に居てはいけない存在で、居なくなっても良い寧ろ居ない方が良い存在。
だからそれは彼らのなかでは自然なことで、俺が疑問を抱きさえしなければ問題になり得ない。否、疑問に思っても"右側"の意見など汲んでもらえることなど無い。
それを理解したのはいつだっただろうか。最近のような気もするし、だが心のどこかで疾うの昔から悟っていたような気もする。どちらにしろ、今の俺は身を以て知っている。
「馬鹿だよなぁ」
それなのに、俺はこうやって最期まで世界に尽くしている。なんと愚かで馬鹿らしくて美しい自己犠牲。 後に仲間たちは俺の死を餌に哀しんだり悼んだりして、己の偽善の美徳に酔うのだろう。ああ、本当に馬鹿馬鹿しい。
あぁそう云えば一番空々しい偽善者が居たっけ。「瘴気なんてほっとけ!」って叫んだ奴。
そんなセリフが云えたのは自分が左側の存在だからだ。もしもあの時俺が「そうか、じゃあほっとくよ」なんて云ったらあいつは安堵したような顔をつくりながら内心失望していたに違いない。
あれは俺が何があっても瘴気を消すと確信していたからこそ叫べた言葉だ。自己満足に浸るための言葉だ。俺のための言葉なんかでは決して無い。
それらすべてを理解していながら俺が右側を抜け出せなかったのは、レプリカだから、というのもあるが、俺が"ルーク・フォン・ファブレ"で在り続けたからだ。壊そうと思えば壊せた型を、自ら壊すことをしなかったから。
本当は世界を消す事も出来た。俺と言う存在と引き換えに超振動を起こせばこの世界は壊滅的なダメージを受ける。
何故そうしなかったのかと問われれば、面倒だったからだと答えるしかない。
だって俺はもう生まれてから被り続けてきた仮面を繕う事に慣れすぎていたし、今さら素を晒すなんて如何にも面倒な真似は避けたかった。
それよりは早くこの腐った世界から抜け出そうと思った。解放されたかったんだ。
そして何度も試みて様々な妨害(被験者が瘴気の中和に割り込んできたりなどのエトセトラ)に遭いながら、今漸く解放の儀式を始めようとしている。
"≧"の左側にあるすべての存在へ告ぐ。
「超振動でぶっとばされなくて良かったな」
【≧】数量・程度・優劣などの比較で、それより上の範囲であること。A大なりB=AはB以上。
2007/03/05