はずれくじを引いたもうひとりが好きな人であれば、きっと誰もがそう思うだろう。
もちろんティアもその例に漏れず。
「よりによってケテルブルクで買い出し係かよ~ついてねえ」
久々に訪れたこのケテルブルクが、いつもより冷え込んでいるというのは喰えない軍人の情報だ。
「仕方が無いでしょう。ルーク、きちんとコートを着ないと風邪をひくわよ?」
「あ、うん」
出逢った頃とは全く違う、素直に頷いてボタンを留めるルークの姿に、しかしもう驚くことは無い。
ルークは変わった。一般には常識とされる知識や相手に対する礼儀、そして命の重みを知らなかったあの頃とは。 皮肉にもその無知さゆえに犯してしまった罪の意識から変わったのだ。
だがその変化のせいでルークに想いを寄せるようになった。そして仲間も形は違えど、ルークに好意を持っていることを感じる。
それが嬉しくもあり、少し寂しくもあった。
「そんで、何買うんだっけ」
「ちょっと待って……」
そう問われて、ジェイドから受け取ったメモを探る。かじかんだ手で漸くポケットから取り出したものの、上手く掴めずにひらひらと雪の積もった道に落ちていった。 それを拾おうと手を伸ばすと、ルークの手が重なった。驚きと羞恥心で、思わず手を引っ込める。
「手、すげえ冷たくなってんじゃん。人の心配する前に自分の心配しろよ。お前が風邪ひいたら困るだろ」
当然ルークもそうするだろうと思っていたティアは、ルークが自分の手を掴みながら言った言葉に顔を赤らめた。
その様子に自分が言った言葉の意味に気づき、ルークも顔を赤らめながら慌てて言い繕う。
「い、いやほら、治癒士が風邪ひいてたら戦闘に差し支えるし!」
「わ、わかってるわ! そんなことくらい」
気恥ずかしさを隠すべく、互いに不自然なほど上ずった声で言い募る。それから暫く不毛な会話を続けていたのだが、 ふとまだ右手が掴まれているのに気が付いて、口ごもってしまったティアとルークの間に気まずい沈黙が訪れた。
「ルーク……離して」
普段どおりに聞こえるように、裏返りそうになる声を必死で抑える。このままだと買い出しどころか、きっと宿にさえ戻れない。
「嫌だ」
拗ねた子供のような口調で言い放たれたその言葉に、瞠目するしかなかった。
「手首とか足首とか冷やすと、風邪ひきやすくなるんだってガイが言ってた……から」
寒さのせいなのかそれとも恥ずかしさからなのか、僅かに赤い顔を背けてルークは足早に歩き出す。
「こうしてた方が、あったかいだろ!」
冷えたティアの手を握りながら、その耳がますます赤くなるのを見て、声に出さないよう笑った。
照れ隠しのせいで解り辛い優しさは、まったく変わっていないと気が付いて、寂しさが薄れていくのを感じながら。
変わった部分も変わらない部分も、すべてが愛しくてたまらない。
いつもより冷えた雪の街は、頬を火照らすふたりには心地よくすら思えた。
2006/05/21