青春の手首 
噎せるような熱気が篭る体育館。点々と汗が滴っている生温い床に、それも気にせず倒れ込んだ。
どくどくと身体中に巡る血の音が煩い。外から犇めく蝉の鳴き声なんて比じゃない。
「僕、みんなとバスケできて、よかった」
息を切らせながら、雑音の狭間を掻い潜って上機嫌に呟かれた声。
「そういうのは、全部終わってから言えよ」
「今、言いたかったんです」
だって終わりなんて、まだまだ先だし。
空は屈託なく笑って、立ち上がる。ボールがネットを通過する小気味良い音が響く。 誰よりも小さい空が、誰よりもよく決めるスリーポイント。そうだ、こいつに終わりなんて見えてないんだ。
―――ホントに、空みてぇだな。
そう思った。柄にもなく。敵わねぇ。
今まで暴力を盾にして色んなモノから逃げ回ってた俺を、あっさり捕まえて引っ張り上げたコイツのドコにそんな力があるのか解らない。 母親が死んだ時も何も言わなかった。廃部になった時も誰一人責める事もしなかった。
それがコイツの強さで、アイデンティティなんだろう。それでも、そういうモノを全部曝け出せるほどの、信頼、というものが欲しいと思った。それこそ、柄にもなく。
そんな葛藤のような感情を断ち切るように、鬼マネージャーの無常なホイッスル音が劈いた。短すぎる休憩時間は、精神的疲労を助長させる。 だりい。思わず零せば、元気の塊みたいな空が笑う。それだけで、わけのわからない焦燥感が汗と共にひいていく。
「早くしないと、七尾さんに怒られますよ」
ああ、敵わねぇな。
声に出さず苦笑する。そのまま、近いようで果てしなく遠い空の、笑顔のまま差し出された手首を掴んだ。

青春の手首

2007/07/16
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