ほんとうにすきな子には手が出せないといい>先生 
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長期出張とは名ばかりの、実質三日で終わらせた仕事から帰省した玄関先。あからさまに肩を落としてやさぐれている背中に、今夜何があるのか大体の予想がつく。 新月の真っ暗闇に渦を巻いている紫煙は、まるで彼の心情そのものだ。
「おい」
呼びかけられた相手は猫のように身体をびくりと揺らして、ぎこちない動きで首をめぐらせた。
「執務室なわけねえな」
「リボーンさん! お疲れ様です!」
九十度に腰を折って勢い良く挨拶をした獄寺は、確信に満ちた確認を言い捨てて通り過ぎようとするリボーンに案の定ついて歩く。 良い茶葉が入ったんでどうぞと応接室に寄ることを勧めたり新技を見てもらいたいのでとトレーニングルームへの移動を促したり。とにかく必死で進路を塞ごうとする獄寺によって予想はますます確信に近づいていく。



妨害をことごとくスルーして辿り着いた扉の前、「リボーンさん!」と鋭く咎めるような声を飛ばす獄寺を睨みつける。
「なんだ」
「……ええと、今はやめといたほうが」
「うるせー。俺は忙しいんだ」
「わああああリボーンさん!」
獄寺の制止を右の耳から左の耳に受け流して、ノックもなしにドン・ボンゴレの執務室に踏み入っていく。 代々ボンゴレが行ってきたあらゆる所業を、書類上ではあるが知り尽くした机に目的の人物が居ないのを一瞥で確認する。 途中ですれ違った黒髪の青年すら素通りして、その奥にある私室のベッドの上、ぐしゃぐしゃになったシーツが絡まって力なく寝転んでいるとんでもなく貧弱な身体を見下ろした。
「てめえ……」
「あ、ははは、……チャオ?」
ようやくフリーに戻って多忙な中で依頼を受けてやった一流ヒットマンに対してチャオじゃねえよこのダメツナが。
口に出すことにさえ辟易してベッドから蹴り転がしたついでに、報告書と証拠の品々が詰まった銀色のアタッシュケースを頭に落としてやる。 直後に聞こえた鈍い音と呻き声は無視して、踏み出した踵を返して部屋を後にすると、既に去ったと思っていた雲雀が、扉に寄りかかったまま視線だけを向けた。 いつもと変わりなく品のよいスーツにひとつの皺もない彼は、それでも確かに獰猛な捕食者の目をしている。 狩りが終わって興奮冷めやらぬ様子のしなやかな猛獣と目が合うと、被食者の元家庭教師であるリボーンはそれと解らないよう溜め息をもらした。



どこをどう教え間違えたのか、それともあの絆されやすい軟な性格が災いしたのか(おそらく後者。少年は何と言っても世界一のヒットマンであり最高の家庭教師)、 当初は死ぬ気で抵抗していたものの、たぶん山本あたりにでも丸め込まれて道を踏み外してからはどうでもよくなったのだろう今では、泣く子も黙るドン・ボンゴレはまさに毎晩取っ替え引っ替え。 しかも守護者である男たち相手に「啼かされて」いるのだなんて知ったら、世界中の裏社会が混沌と混乱に満ち溢れるに違いない。なんと愚かな。唯一、その事実に直接関わっていないリボーンは、既に呆れることすら馬鹿馬鹿しくなっていた。
苦笑した気配をどう捉えたのかは知らないが、どこか責めるようなニュアンスで顔を顰めて呟いた。「随分と余裕じゃないか赤ん坊」
僕には理解できないね、と言う溜め息のそのあと、もう随分と前に捨てた姿の名でリボーンを呼ぶのがそうであるように、いつでも自分の世界を壊さない青年の顔が少しだけ歪むのを愉快に思う。

別に誰に解らなくたっていい。いつかの日、ちょうど今日とおなじように貧相な身体を晒して震わせながら、「おまえが帰ってこないのが悪いんだ!」と八つ当たりのように泣き喚いた夜から迷走し続けているあのダメ男は、散々迷った挙句に自覚したあと結局は、自分の元に帰って来るのだと、なぜなら俺だけが識っている。

いとしいあなたに星はめぐる


2008/05/17
お題 / オペラアリス [ closed ]

まだ自覚のないボスと自覚するのを待ってる先生。
実際呪いが解けたらひばりさんは先生をなんて呼ぶんだろう…