山本は俺にとってのヒーローなんだと思う。
つっかかる獄寺を受け流している隣の能天気な笑顔を見ながら、突然そんな考えがぽんと浮かんだ。
どうでもいいけどこの二人の会話は噛み合ってないようで最終的にまとまる。ていうか山本が丸め込む。山本の笑顔にはそういう力があるのだ。
話を元に戻すと、突然と言った割に山本ヒーロー説は俺のなかにずっとあった。
まだぜんぜん話したりなんかしたことがなかった一年の初め頃、体育の授業の「助っ人とーじょー」って声を聞いて、こいつはヒーローになる男だと確信していた。
実際この時から山本は野球部期待のエースで人望も厚い正真正銘のヒーローだったわけだけれども、
その時根づいた確信はそういうものとはすこし意味合いがちがうのだった。
たとえば自殺を考えるまでひとつのことに打ち込んだり、傍迷惑な赤ん坊が巻き込んだ山本曰くの「マフィアごっこ」でも暗殺部隊のふざけた名前をした剣帝を倒しちゃったり、
とにかくおそろしく純粋な気持ちのままで、とんでもないことをやってのけてしまう。
正義感ではないけどきれいなものに満たされた無敵の存在。それが俺にとっての山本なのだ。
「やまもとー」
「うん?」
獄寺がいつの間にかどこかへ行ってしまったので、ものすごい疲労感と満腹の心地よさにまどろみながら、気になっていた事を山本に質問をしてみる。
本人にはとても(いや、ほんとうに)悪いが、獄寺がいると肝心の山本の話が聞けないので丁度よかった。
「ちっちゃい頃の夢ってなんだった?」
訊ねれば怪訝そうに首をかしげながら、「死ぬまで野球やることかなー」と予想通りの答えで笑っている山本を見て、俺はおもわず泣いてしまいそうになる。
しかもまったくのエゴにまみれた、自分のためだけの感傷で。
「オレは巨大ロボだったんだ」
「おーすげー」
でもその夢を書いていた紙は、結構あっさりと破ることになってしまった。
なれる・なれないを思い知る前に、俺自身がその夢に幻滅してしまったからだ。
「それ聞いたやつがさ、『あんなのは人殺しだ』って言ったんだ」
巨大化して戦うことで傷つく人がたくさんいるのだということを力説された俺は反論するどころか、その言葉をすっかりと呑み込んで納得してしまった。
「夢がないのなーそいつ」
「納得しちゃったオレもオレだけどね」
それでも映画や小説なんかで何度だって崇め讃えられるのが証であるように、ヒーローへの憧れっていうものは尽きないのだ。
俺はこれから、ボンゴレという巨大な組織を操縦して敵を世界を平凡を喰いつぶさなけりゃならない。夢は叶う。
だけどリボーンが言ったとおり、俺はヒーローになんかはなれやしない。だから俺は俺のヒーローに、人殺しなんてしてもらいたくないのだ。
「山本の夢も叶えばいいね」
死ぬまで野球して今みたいに無邪気に笑って普通の生活をして、そしてそのなかでヒーローみたいに生きればいい。
だけどそれを口にしようとすると決まって、いつもの屈託ない笑顔じゃなくとんでもなくおだやかに微笑むものだから、俺はなにも言えなくなってしまうんだ。
「今の夢はツナたちと死ぬまでいることだぜ?」
ほら、そうやって微笑うから。そして現在の夢の行き先が。
「うん。オレも、だよ」
きみと一緒だから。だからだよ。だからこそ、本当になにも言えないんだ。