教育/現実に於いて/東京事変
 先日の会合について家庭教師様の非常にねちっこい嫌味を頂いていた午後の休憩時間。「十代目、失礼します!」との気合入った獄寺の声に生返事したところ、ボンゴレ執務室に文字通り転がりこんできた人物を見つけて、綱吉は絶句した。後ろ手に拘束された細長い痩躯は跪いて、椅子に座る綱吉を見上げるや否やのたまった。
「そういうわけで、ウチをボンゴレに入れてくれ」
「そういうわけでも何も、全然説明なかったよね今!?」
 江戸時代の罪人よろしく山本に縛り上げられ、獄寺に踏みつけられている様はいっそ哀れなのに、至ってけろっとしているスパナを見て頭を抱えたくなってくる。これは絶対、厄介ごとだ。
「十代目、こいつの話なんか聞くことありません! ミルフィオーレの残党っすよ!?」
「んーでも、スパナには助けてもらったし……」
 厄介ごととわかっていながらも話を聞いてしまうあたりに自分の性を思い知る。まあ、話を聞くだけなら。
「とか何とか言って最終的には丸め込まれるんだよな、てめえは」
「心読むのやめろってば……」
 もう項垂れる気にもならない。気にせず目線だけでスパナに事情の説明を求めると、ぱっと表情を明るくして口を開いた。
「ミルフィオーレはあんたたちが潰してウチには拠り所がない。しかもあんたには一応貸しがある。そこでだ、ボンゴレには専属チューナーがいないって話だし、何ならウチを雇ってもらおうと」
 そこでちらっと、家庭教師に目を向けてみた――ことをすぐに後悔した。にやり、笑ったその笑顔のあとはかならずロクでもない発言がやってくる。確実に。
「いーんじゃねーか? これからは伝統だけじゃやってけねーからな。情報収集もセキュリティも常に最新のヤツが必要になるぞ」
(……ほらなー!)
 しかし基本的に押しに弱い綱吉は、実を言えば「そういうわけで」あたりから諦めていた。つまり、スパナが来た瞬間に、この研究バカを追い出すことを。それに何だかんだでリボーンの言ったこともただしい。専属ではないジャンニーニは緊急時に駆けつけるにも時間がかかるし、何より毎回頼むのも申し訳ない。しかも遠慮なく屋敷のなかで暴れ回る誰かさんたちのせいで頻度だって半端じゃないのだ。それだったら専属チューナーを設けて逐一修正・強化してもらったほうが断然いい。きっと。
「わかった。うちにおいで、スパナ」
 溜め息を吐いてそう唸った隣で「十代目ーーー!」だかなんだか叫んでる忠犬がいるけど、仕方ないじゃないか。すべて綱吉の言動はリボーンに逆らえるようにできていないのだ。
「ありがとうボンゴレ!」
 歓喜の叫びをあげたスパナの声を聞いた直後、すぐ傍で人工的なイチゴの匂いがした。あれだ、キャンディの。
 そうしてスパナ型のキャンディが頭に浮かんだ頃には、ちょっとごわごわした布の感触が頬にふれた。鉄の擦れた独特の匂いもすこしだけイチゴに混じる。獄寺は日本語なんだかイタリア語なんだか判別不能な言葉で喚きまくってるし、山本のあたりから冷気が漂ってる。リボーンは……うん、とりあえずその銃しまおうか。
 まったくありがたくないことだが、リボーンに会ってからこういうのはだいぶ慣れた。自分で言うのもアレだけど、こんなひょろい男に抱きついていったいみんな何がおもしろいんだろう。前々から気になっていたその疑問を、ようやくまともに答えてくれそうな人材に出会えたので聞いてみることにした。
「オレに抱きついてなんかたのしい?」
「ん? たのしいっていうか」密着していた身体にすこし距離ができたので見上げると、三白眼のうすい色の瞳に一瞬、アヤシイ光が射した気がした。直感っていうよりこれは、経験? 何それ全然ありがたくない。「言っただろ」
 距離がまたなくなって、直接言葉が耳に響く。ふれる息がくすぐったくて背筋がこそばゆい。
「ウチはジャッポネーゼが好きだって」
「ちょ、リボーン! 部屋んなかで撃つなって言ったろー! 獄寺くんも山本も獲物しまええええ!」
「………………」
「あ、ごめんスパナ! なんだって?」

 ――実際問題、いちばん厄介なのは、実は綱吉だったりする。彼らにとって。

現実に於いて

2009/06/07 (一部改変)
08/11/15自宅開催の萌茶にて
スパナがツナの右腕になるとしたら
@リング強奪で守護者Aリング製造で婚約者Bあえてのリング不使用
スパナが味方になる前のブツなのでちょっと合わないけどそのまま。