かなしみはかなしみだからこそうつくしいのだ、せんせいはいつか言った。せんせいの言葉はいつもむつかしくてわかりにくい。だけどそれは、それだけは、今ならわかるよ。
せんせい、あなたを喪ったあの日は世界がとんでもなくうつくしかった。理不尽なくらい。よく晴れた午後だったね。半透明な銀色の雨がすっかり止んだ空から、雲の隙間を通り抜けた光が差し込んでいた。花にかこまれて目を閉じた、もう歳をとらないあなたのあおじろい顔は、永遠の象徴のようにうつくしかった。
涙なんかで汚すのがもったいないほど、世界はきらめいていて、からだが震えた。喉に貼りついて止まった嗚咽は、とうとういちども声にならなかった。
たしかにおれはあの時、かなしみのうつくしさに酔いしれていた。
それがどうだ、なあ、時間がおれたちのあいだをぐんぐん引き離していくうちに、かなしみはかなしみでなくなった。空っぽになった心臓は不快な音を立てて、醜いうねりを産み出しながら、あなたを奪ったうつくしい世界への憎しみの根に絡まってしまった。
あなたをかなしみのまま送り出せればよかった。こんなにも醜い、歪んだ気持ちと一緒に思い返すことなんて、当然あってはならなかった。
せんせい、いまならわかるんだ。あなたの恐ろしいまでの振る舞いも、痛いくらいの叱責も、ぜんぶぜんぶおれのためにあったこと。あなたのすべてをかけて、おれを生き永らえさせてくれたこと。いまなら。
ああだけど、どうすればいい。あなたはもうどこにもいないのだ。おびただしい星々のなかにも、届きもしない空のむこうがわにも、地表のずっと奥の奥、マグマの煮えたぎるところにも、ましてやおれの心のなかにも、本物のあなたはどこにもいない。おれのなかに息づくあなたは事実を歪曲した虚像であって、もはやせんせいとは呼べもしない。さよならすら告げず「生きろ」と言ったその口でキスをしたあなたは、もう、どこにも。
ああ、せんせい。リボーン。
さよならだ。