呆れた溜め息に埃っぽい空気が動く。それすら不快で機嫌は降下の一途をたどる。
「てめえそろそろ部屋片づけろ」
 そう言ったリボーンに返る答えは決まっているのだ。
「えー、めんどくさい」
 生来のめんどくさがりは片づけるということができない。だから部屋の床にはゲームやらCDやらジャンプやらスナック菓子の袋やら服やら、ごっちゃごちゃになって積み重なっている。不衛生この上ない。そんな環境に完璧主義で潔癖なリボーンが耐えられるはずがなかった。
「足の踏み場ねーし何がどこにあるかさっぱりだ」
「オレにはちゃんと分かる。だからいい」
 何気に強気なのがムカついて銃を構えたリボーンを見、綱吉は無言で姿勢よく立ち上がり、散乱したゴミまがいを手に取りはじめた。
 それが3時間前。
「……俺の目には余計散らかったように見えるぞ」
 リボーンの言うとおり、すでに発掘と化した作業で片づくどころか、うまい具合に埋まっていたものが掘り起こされてもはやゴミ屋敷の様相である。
「いやいや気のせいじゃないかな!」
 上擦った声で言っても説得力なんて皆無だ。本人も自覚済みならなおさらひどい。目も当てられない。
「いいか。まず要らねえもんを捨てろ。じゃなきゃてめえを窓から捨ててやる」
 冷気すら漂いそうにつめたい眼差しでリボーンが脅しつけても、綱吉は結局、綱吉だった。
「でも、全部必要だし……」
 リボーンは綱吉の呟きに目眩を起こした。その埃まみれでくったくたになったトレーナーもか?、という問いすら辟易して出てこない。そして容易に思い描いてしまえる未来図に絶望しかける。十代目の住まうボンゴレの屋敷は、確実にゴミ屋敷になるだろう。
 何も即物的な話ではない。メイドだって何十人も雇うのだから、塵ひとつ落ちていないに決まっている。問題はボンゴレを直接構成するものの話。つまり部下。
 一度懐に入れてしまったら捨てられない手放せない綱吉は、きっと過ちを犯した奴でも放り出せないだろう。気づいたら自由に踏み出せる場所もないくらいに集った人間を、選り分けることもせずに囲っておくのだ。
 人数は多い方がいいわけではない。とりわけボンゴレのようにある程度『良心的』な組織にとっては。数が多ければ多いほど不純物が多くなるのは宇宙の真理である。
 だから今のうちに片づける癖をつけなければ、とリボーンは思うのだ。
(お前に必要なのは俺だけでいい)
 そんな本音は天井ちかくに積み上げられたゴミの山より高いプライドが邪魔して、言えるわけがないので。


「うひゃああああ! Gが、Gがいる!」
「獄寺か?」
「……いくらなんでも、そりゃあひでえよリボーン先生」


恋を発掘

2010/03/12