第1章 再生の儀式 2

第1章 再生の儀式 2




「ご主人様は悪いことをしたんですの……?」
 そう問われた時、なぜ即答できなかったのか。彼の犯した罪、その後の行動は紛れもなく最悪のものだったというのに。
 だが本当はその理由など自分が一番よく解っているのだ。
 ただ、認めるのが怖いだけで――。

「ティア、どうした?」
 祖父に話しかけられ、今まで自分がこの部屋に訪れた目的と違うところへ思考を飛ばしていたことに気が付いた。
「何でも……ないわ」
「そうか。ところで、お前はこれからどうする」
「そうね……実を言うとまだ決めていないの。外郭大地に戻ろうとは思っているんだけど――」
「彼が心配か?」
 突然図星を指されて、内心酷く動揺してしまった。彼は仲間やその信頼を失ったのだ。それだけではない。今まで当たり前だと思っていた居場所を、そして通常なら疑念の余地すら無い自分自身さえも、何も無くなってしまった。
 いや、最初から「無かった」。
 仲間とは口ばかりの、ただ利用するだけの彼らにルークへの信頼があったとは到底思えない。幼馴染みの二人さえもオリジナルの姿をフィルタに彼を見ていたわけで、レプリカなのだから元々彼自身の居場所でも存在でもなかったのだ。
 そんな彼を外郭大地に連れ帰ったとしても、深く抉られた傷はさらに化膿して手に負えない状況に陥るだけだ。だが彼独りユリアシティに残して行ったとしても、結果的に同じ事になってしまう。
 それは最大の大罪を犯した罰。――そう切り捨てる事だって簡単なのだ。現に仲間として旅してきた彼らはそうしたのだから。
 だけど自分にはそうできない理由がある。それを認めようとすると、心のどこかで警鐘が鳴り響くのだけれど……。
「目覚めるにはまだ時間がかかるだろう。それまでに決めればいい」
 やわらかに告られた祖父の言葉を咀嚼して聞き入れ、これからミュウから聞くはずの話に、密かに身震いをした。

 自室に続くドアの前でゆっくりと息を吐き、覚悟を決めてノブを回すと、何か冷たいものが背中を這い上がるような寒気を覚えた。それと同時に嫌な予感が過ぎる。
 震える手に鞭打ってドアを開き辺りを見渡すと、床に伏しているミュウを見つけた。駆け寄って外傷などを確かめると、ただ倒れているだけと解って思わず安堵の息が漏れる。
「ご主人……様……」
 その言葉にはっとしてベッドに視線をはしらせると、先程まで横たわっていた彼は居らず、ただその痕跡だけが残っている。ただ、彼が居たというその名残だけが。
 昏睡状態の彼が自力で移動できるわけがない。縦しんばできたとしてもこの短時間で移動できる距離など高が知れている。すれ違わないはずがないのだ。
 ならば彼を連れ去った誰かが居るはずだ。
 わざわざ彼を攫ってまで必要とするその人物――何万人もの命を一瞬で奪ってしまうその力を利用しようとしているのは……。
「何を企んでいるの……兄さん」



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06/08/24